『クリスマスの髪かざり』
小さな町を見わたせる丘に、小さな家があります。
家にはおじいさんが住んでいて、
「町へは歩いて30分、おかげで足腰がじょうぶでいられるわい」
と、いつもニコニコ。陽気に話していましたが、ちかごろ町の人たちが、おじいさんを見かけることは、すっかりなくなっていました。
「むりもないねえ、今年はおばあさんが亡くなってしまって・・・」
「それから、あのかわいがってたネコもねえ」
と、町の人たちは話しあうのでした。
そんな、おじいさんにとってのつらい一年が、終わろうとしています。
今日はクリスマスイブです。昼じゅう雪がふりつづく中、町の人たちはおじいさんをしんぱいして、つぎつぎにたずねてきました。
クリスマスのクッキーやドーナツ、あめや真っ赤なりんごを、おじいさんにわたします。
「わざわざ届けてくれて、ありがとう」
しわのよる目を細めていうと、おじいさんはそれきり、ドアをしめてしまいます。
パン屋のおかみさんも、やってきました。
「いつものクリスマスツリーは、かざってあるのかい?」
窓に首をのばして見ますが、家の中はうすぐらく、しんとしています。
「いいや、もういいんだよ」
おじいさんは首をふって、気ごころのしれたおかみさんにも、背中をむけるのでした。
雪がやんで、大きな丸い月がのぼりました。
おじいさんは家の窓から、丘の下にひしめく家をひとつひとつ、ながめました。
あたたかな灯りがともり、町じゅう光がきらめいています。
おじいさんはみんなにすまない、と思いながら、クリスマスを楽しむきもちになれず、もう寝てしまおうと横になったときです。
コン、コン、コン
ドアをたたく、かわいた音がひびきました。
(また、町のだれかかな?)
おじいさんはおきあがると、ガウンをはおり、スリッパをはきました。
ドアについている小窓をあけて、目をこらして見ると、雪しかみえません。
おかしいな? とおじいさんは、もういちど小窓に目をつけて、下のほうを見ました。すると、いました。小さな少女がひとり。
おどろいて、おじいさんはドアをあけました。
「こんな夜ふけに、どなたかな?」
「おじいさん、こんばんは。わたし、髪かざりをさがしているの」
月の光が少女のすがたをてらしています。長い髪のあちこちがぴょこぴょこはねて、色黒のそばかす顔に、大きなひとみがついています。コートやマフラーもつけずに、緑色のワンピースを一枚きり、着ているのです。
「まあともかく、さむいからおあがり」
おじいさんはしかたがなく、あれからはじめてのお客さまを、家にまねき入れました。
少女は家に入るなり、うれしそうにさけびました。
「わあ、すてきな髪かざりがいっぱい!」
タタタっとテーブルにかけより、上においてあるものをながめます。
「それは食べもので、髪かざりなんかじゃないよ」
おじいさんの声をよそに、少女はドーナツ、杖のかたちをしたあめ、りんごをつぎつぎに、はねた髪の毛にひっかけはじめました。
おじいさんは、そんな少女のようすをあきれて見ていましたが、そのうちに、
「うわっはっは!」
と、腰をおって笑いだしました。
「どうして笑うの?」
少女はふしぎそうに、おじいさんの顔をのぞきこみましたが、またテーブルにもどると、星のクッキーを頭にのせて、くるくる踊りだしました。
おじいさんはとうとう笑いつかれて、ゆりいすによりかかりました。それからとても、とても、ねむくなってしまったのです。
ゆりいすで、かっくんとゆれるおじいさん手をにぎって、少女はいいました。
「もうこんな時間よ。おじいさん、ベッドで休みましょう」
「ああ、こんなに笑ったのはひさしぶりじゃった…うん」
おじいさんはまどろみながら、ベッドにたどりつくと、すぐに寝いきをたてはじめました。
夜中の12時です。丸く白い光が星空にあらわれました。光がだんだん大きくなると、
シャンシャンシャンシャン ぶふうーっ
鈴の音と、トナカイの鼻息がきこえてきました。
サンタクロースはこどもたちにプレゼントをくばるとちゅうで、いつもこの丘におりたち、ひと休みしているのです。でも、この家に入ることはありません。おじいさんの家に子どもがいないことを知っているのです。
ですが、なぜかサンタクロースはえんとつをよじのぼり、うんしょうんしょとお
じいさんの家に入っていきました。
するとあんのじょう、おかしなかっこうをした少女が家の中にいました。
「きみは…そうだ。もみの木のこどもだね。いったいここで、何をしているの?」
「お母さんや兄弟たちが、今年はわたしの番だって、おしえてくれたのよ」
少女の髪にひっかけたあめが、話すたびにゆらゆらゆれます。
それは、こういうことでした。
おじいさんは、毎年クリスマスイブの日に森にいくと、もみのおさない木を根もとからほりだして、家にもってかえるのです。
「ほかの人たちは、私たちを根っこのところでギーコギーコ、のこぎりで切ってしまうの。でも、ここのおじいさんはちがったの。私たちをスコップで、根っこからほりだして、鉢うえにしてくれるのよ」
「そうだったのかい」
少女ははなしつづけます。
「それから、クリスマスのいろんなかざりをぶらさげてくれるの。いつもネコがいてね、かざりにじゃれてあそぶから、おばあさんがいつもくすくす、笑っていたんだって。兄弟からきいたのよ」
「そうかい。ネコとおばあさんがいたんだね」
「そう。それからクリスマスが終わると、おじいさんは、もとのとおりに、わたしたちを森にかえして、うえておいてくれるの」
少女はサンタクロースの前でうれしそうに、踊って見せましたが、ふっととまるとぽつり、言いました。
「わたし、おじいさんがむかえにきてくれるのを、楽しみにまっていたのに…」
サンタクロースは少女の話をきいて、おじいさんのこの一年のことを、すっかりわかってしまったのです。それから,あの大きなふくろを、どっこいしょと床におろして、手を入れてごそごそ、何やらひとつをひきだしました。
少女に片目をつむって、サンタクロースはいいました。
「きみはもうそろそろ、もとのすがたにもどるといいよ」
そして、リボンのついた小さなかごを、床においていきました。
小鳥の歌う声で、おじいさんは目をさましました。ハッとベッドからとびおきて、少女をさがしましたが、どこにもいません。
陽のさす窓の前に、鉢に植わったもみの木がありました。おじいさんはおどろいて、近づいてみると、少女が髪につけていたりんごにあめ、ドーナツがかざられています。星のクッキーもてっぺんにありました。
足もとでカサカサカサ、と音がします。
床にリボンをかけた小さなかごがおいてありました。音をたててふるえています。
あけてみると、白い子ネコがころんとすわり、青い大きなひとみでおじいさんを見上げました。
おじいさんは子ネコをだきしめると、もみの木の根っこに、ぽろぽろと涙をおとしました。
子ネコが、ゆれるりんごに気がついて、小さなつめをのばしてじゃれはじめました。